東京高等裁判所 昭和30年(う)1248号 判決
被告人 安福姫
〔抄 録〕
控訴趣意第一点について。
犯罪の場所は法律上別段の定めのない限り、主として犯行の同一性を特定する事項たるに止まり、罪となるべき事実に該当しないものであるから判決書にこれを表示するには犯行の同一性を特定するに足る程度にこれを示せば足り、些末な点についてまで厳格な正確性を要求するものではないし、また必ずしも常にその証拠を判決書中に挙示せねばならぬものでもなく、従つて判決書に表示された犯行の場所に多少正確を欠いたとしても犯行の同一性を特定するに足りる表示がある以上判決を破棄すべき瑕疵であるということはできない。これを本件について見るのに原判決は被告人が本件覚せい剤を不法に所持していた場所を横浜市中区黄金町二丁目七番地なる当時の自宅と認定していることは所論のとおりであり原判決引用の被告人及び岩城ゆきに対する各現行犯逮捕手続書並びに捜索差押調書中の記載によれば、本件覚せい剤不法所持の場所たる捜索、押収及び逮捕の場所はいずれも同所被告人方となつていて原判示の如く認定することは必ずしも所論の如く全く不可能であるとは言い難いが被告人の司法警察員に対する供述調書及び原審公判廷における被告人の供述によれば、被告人は予て右家屋を所有してこれに居住し、二階の一間を、右岩城ゆきに賃貸していたが、昭和二十九年十月末頃、全戸を右岩城に貸与して表記肩書現住居に移転したこと、本件犯行の当日たる同年十一月十四日頃被告人は同家に赴き本件覚せい剤を所持していたものであることを認めることができるから、右原判示犯罪の場所は被告人方自宅ではなくして岩城ゆきの住居であると認めるのを相当とする。従つて、原判決が本件覚せい剤不法所持の場所を被告人の自宅であると認定判示したのは、事実誤認のそしりを免かれないではないが、然しながら、原判決は本件犯行の場所を、横浜市中区黄金町二丁目七番地と認定した点においては洵に正当であつて、犯行の同一性を特定するに足る場所の表示としては欠けるところがなくただ、その世帯主が岩城ゆきであるのを、被告人が世帯主であると誤認したに過ぎないのであつて、かかる些末の点の瑕疵は、犯罪の成否はもとより刑の量定にも毫も消長を来さないものと認められるから、これをもつて判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認と言うを得ないことは勿論でありまた所論の如く、原判決挙示の叙上原審公判廷における被告人の供述と犯罪の場所に関する原判示認定との間に矛盾するところがあるとしても、これをもつて理由にくいちがいがあるものということはできない。而して原判決挙示の証拠によれば、本件覚せい剤不法所持の場所が被告人の当時の自宅であつたとする点を除くその余の原判示事実を認定するに十分であり、記録を精査するも原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認乃至は理由にくいちがいがある等の過誤はない。論旨は理由がない。